詩「ロビンソン・クルーソーに憧れて」

男は小舟で単身海に出た。

 

航海の知識がある訳でも、特別海が好きな訳でもなかった。

 

ただ、都会の喧騒や煩わしい人間関係に嫌気が差して逃げるように海に出たのだ。

 

勘違いする人もいるかも知れないが、彼は自ら命を絶つために大海原を彷徨っている訳では決してない。

 

夢を失った訳でもそれほど人生に絶望した訳でもない。

 

彼はただ海に出て自分という人間の価値を測ろうとしたのである。

 

小舟で当てもなく海を彷徨えば極端に命を危険に晒すだろうという事は百も承知だったが、男は自分の可能性に賭けたのだ。

 

もしも現世にまだやり残した事や成すべき事があるならば無謀な航海をしても神は決して自分を死なせやしないだろうと彼は高を括っていた。

 

自分なら貨物船に救われるか無人島にでも流れ着いてロビンソン・クルーソーのようになれると思っていたのである。

 

何と愚かで身の程を知らぬ男であろうか?

 

退屈は死に至る病だと昔誰かが言っていたけど、厨二病はそれよりももっと致死率の高い極めて恐ろしい病だという事を彼は私に教えてくれた。

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