短編小説「血塗られた城」第三章 男と犬と月

男と犬と月

城を後にした男は思う所あって再びあの町へ向かっていた。

………….数時間後

町へ着いた男はすぐに町中の工具店やホームセンター、薬局などを巡り、金属製の部品、穴の開いた型のようなもの、炭、何かの肥料?燃料?などをかき集め始めた。

そして目当ての材料を一通り揃えると男はあの丘の家へと向かった。

再びあの家に戻った男、真っ先に向かったのは旦那の部屋、そこで彼の愛銃S&W M19(コンバット マグナム)とその弾の入った箱から弾丸6発を拝借すると、今度はリビングに向かい、暖炉に炭と燃料、石などをくべて火を焚き始めた。

一体彼は何をしているのだろう?

次の瞬間には暖炉の火は激しく燃え盛り、すぐに周囲は異常なほど高温になった。

この後に男が取った行動には心底驚かされた。

事もあろうに彼は暖炉に聖短剣をくべ、刀身を溶かし始めたのだ。

そして溶かした刀身を先ほど町でかき集めた穴の開いた型に流し込んだ………

感の鋭い人ならもう気づいたと思うが、そう、彼は聖短剣を溶かし銃弾(弾頭)を製作していたのだった。

いくら聖なる力が宿っているとはいえ短剣は短剣。

牧師と領主の二の舞になるのは目に見えている。

おそらくあの本を読んで学んだのだろう。

そして炉棚の上の写真、そこに写っていた自宅の地下室で銃弾を製作する夫、そこからこの方法を思いついたに違いない。

その後男は地下室に移動し、拝借した弾6発、その全ての弾頭を取り外し、聖短剣を溶かして作った弾頭とそれら正規の弾頭を見比べ、形が合うように特殊なヤスリで削り始めた。

そして終に6発全ての弾頭の形を整えるとプレス機にかけ正規の薬莢と聖なる弾頭を一つにした。

聖なる弾丸の完成である。

男はマグナムにその聖なる弾を込め、ズボンの後ろに銃をしまうと地下室を出て外のガレージに向かった。

そしてガレージの手前10メートル、立ち止まり男はズボンのポケットからリモコンキーを取り出した(あの奇妙な男に貰ったものだ)

男は直感よりも確かなもので、この鍵はこの家のガレージの扉を開けるための物で、さらにその中にはバイクが一台あるという事も知っていた。

「カチ……..ガ、ガーーー」

案の定扉は開き、夫の愛車ハーレーが一台止まっていた。

男はそのバイクを一目見た時、一瞬顔がほころんだ。

きっと彼も国ではハーレー乗りだったのだろう……..

彼はバイクに跨り慈しむようにタンクを撫でた。

そしてガレージのキーと共にあの奇妙な男から受け取ったバイクの鍵でエンジンを始動させた。

「キュルルル・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ドドドブロロロロロロロロ」

そして彼は三度あの城へ向かった…….

城へ着いた男を出迎えたのはなんとあの首に斧が食い込み息絶えたはずの犬だった。

しかし彼に驚いた様子はなく、まるで旧友にでも会ったかのように、あたかもその犬がそこで彼を待っていたのを知っていたかのように、

「よお」

と一言、男はその犬に声をかけただけだった。

そして彼は、両手でもたれるように扉に手をかけ、顔をうずめながら、

「さあ、行こうか」

と誰に言うでもなく言った。

「ギギギ・ギー・バン!」

扉が開くと犬は静かに男を横切り前を行った。

そして数メートル離れた所から振り返り男をじっと見つめた。

この時男は犬がどこへ自分を導こうとしているのかを知っていた…………

犬は常に男の数歩先を歩き、時折後ろを振り返りながら男を地下へ案内した。

地下に敷き詰められた石畳を一歩一歩踏みしめ、彼はその時、人生で最もインパクトのある瞬間へと確実に歩を進めていた。

その歩みは力強く…

その顔は凛々しく引き締まって…

彼の心に迷いなど一切ない事を分からせた….

そしていよいよ貯蔵室の前に辿り着いた男と犬。

そこで彼はあの物語の続きを知る事となった…

あの本を読んでからそれまで男がずっと考えていたのは、あの牧師の従者がその後どうなったのかという事。

そしてオズワルドがなぜ城に残った唯一の人間ミアを襲わずに城に留まる事を許したのかという事だった。

どちらの答えも今ここに……

従者はあの時自ら人柱になってオズワルドをこの扉の中に封じ込めたのだった。

そして死後も御神体として奴を封印していたのだ。

しかし、あの時従者が言ったようにいくら本体を地下に閉じ込めてもその邪悪な力の「全てを押さえる事」は出来なかった。

その邪悪な力の片鱗がこの城内にそしてその周辺に作用し、様々な不思議な現象を引き起こしていたのだ。

そしてその力の影響は次第に外へ外へ広がりつつあった……..

貯蔵室の扉の前で全てを悟った男、扉の奥が静かなのが余計に不気味だったが、それでも男の顔に恐怖は微塵も感じられなかった。

きっと様々な思いが交差して恐怖をかき消していたのだろう。

男は目の前の御神体、従者の骸に敬意と尊敬の念を込めた一礼をし、その両肩に手を置き言った。

「後は俺に任せな。貴方はもう横になって休んでくれ」

そして御神体を扉から離し床に寝かせると、振り向かずに言った。

「案内ご苦労様、もう行っていいぜ、俺なら大丈夫だ」

犬はその場から立ち去る時に何度も振り返り心配そうに男を見たが、彼はじっと貯蔵室のドアノブを見つめていた。

そして犬がその場から完全に立ち去った時、終に男はドアノブに手を伸ばした……………

「……………….ガチャ・ギギ・キィィィー…………………………………」

………………………………………………………………………………

私が皆さんにお話出来るのはここまでだ。

なぜかって?

悪いね、さすがの私もあれを口で上手く描写する自信がないのでね。

まあそんなガッカリしなさんな。

ほら、窓の外をみてみな。

月があんなに綺麗だよ。

===================================================

あとがき

この作品は私がまだ20代の頃に書いた作品で、さらに短編小説第一作目と言う事で、とても思い入れのある作品です。

ストーリーのアイディアは当時見た夢から着想を得ました。

「夢」というはアイディアの宝庫です。

私は今日も皆さんが良い夢を見れるように願っています。

「血塗られた城」を最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。

いつかまた、別の作品でお会いしましょう。

関連記事

短編小説「血塗られらた城」第一章 導かれた男

短編小説「血塗られた城」第三章 男と犬と月

お知らせ

この記事のオリジナル版を電子書籍または紙の本として読みたい方はAmazonの公式ストアでお買い求めいただけますので、是非一度ご覧ください。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CW189VPG

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です