日本人の私たちは一般的に精霊と聞くと、風の精霊や水の精霊、火や大地の精霊などと言った自然に宿る魂などの事をイメージしますが、世界にはもっと様々な精霊の存在が伝えられています。
例えば、亡くなった人の魂なども精霊として伝えられている場合もあります。
そこで今回は日本ではあまり有名じゃない世界の様々な精霊たちをまとめて、それぞれ簡単に紹介していきます。
もくじ
ファー・ゴルタ
ファー・ゴルタはアイルランドの伝承に登場する精霊です。
ファー・ゴルタは飢饉の精霊と呼ばれ、その出現は飢饉や干ばつの前触れと言われています。
Irish Gaelic(アイルランドのゲール語)でfear gortaは「飢えた男」を意味します。
名前の通りファー・ゴルタは常に飢えているので、人間に会うと物乞いをするそうです。
食べ物や服などを気前良く恵んでくれた人々には永遠の幸福や幸運を与え、反対にファー・ゴルタに何も恵まず、刺激し怒らせた者には永遠の不幸と飢えに苦しむ呪いをかけると言われています。
一説によるとファー・ゴルタとは葬儀が行われずに埋葬された死者が精霊として現世に蘇ったものだそうです。
また、ファー・ゴルタが埋葬されていた墓の周りに生えている草はhungry grass飢えた草と呼ばれ、呪われていると言います。
その草の上を歩いた者は終わる事のない飢えに苦しむそうです。
ノッカー
ノッカーはイングランドのデヴォン州やコーンウォール州、ウェールズなどの鉱夫たちの民間伝承に登場する精霊または妖精です。
一説によるとノッカーは大昔にその鉱山で働いていた鉱夫で、洞窟崩れや落石などの鉱山事故で亡くなった後に鉱山の精霊としてこの世に存在するようになったと言われています。
Knockersという名前は文字通り彼等が鉱山の洞窟内の壁を小さなハンマーなどで叩く事が由来であるそうですが、彼等のこの「洞窟内の壁を叩く」という行為が友好的なものなのか非友好的なものであるのかどうかは人によって解釈は異なったようです。
というのも多くの場合、ノッカー達が洞窟内の壁を叩いた直後に洞窟崩れや落石などが起こったからです。
なので、ある鉱夫はノッカーが洞窟内の壁を叩くのは「洞窟崩れが起きるから逃げろ!」という警告のためであると考え、またある鉱夫は洞窟崩れはノッカー達の仕業で、彼等が洞窟内の壁を叩くのは洞窟崩れや落石を起こし、そこで働いている鉱夫たちを困らせるためであると考えたそうです。
また、ノッカー達を友好的な精霊であると考えた鉱夫たちは今後も彼等と良い関係を築いていくために、洞窟内で彼等を刺激する行為を控えたり、また、感謝の印に食べ物(パスティー)などを洞窟内に置いたりしたそうです。
ちなみに、友好的であっても悪戯好きで、鉱夫の道具や食べ物を盗んだりする事もあると言われています。
スルーア
スルーアはアイルランドやスコットランドなどの伝承に登場する精霊です。
スルーアはspirits of restless dead「休まる事のない死者の魂(精霊)」であり、アイルランドでは何千年も前から、スルーアはこの世で最も恐ろしい精霊だと伝えられて来ました。
一説によるとスルーアは天国にも地獄にも行けず、また地上に留まる事も許されなかった最も罪深き罪人たちの魂であり、この世とあの世の狭間を永遠に彷徨う運命であるそうです。
見た目は決まった形のないゴーストのようなもの、または影のようなもので、それ等が集まってカラスの群れのように空を漂い、死者の魂を盗みに来ると言われています。
古くからの伝承によると、スルーアは太陽の沈む西の空から死者の魂を盗みにやって来るそうです。
彼等に盗まれた魂は彼等と共に永遠にこの世とあの世の狭間を彷徨い続けると言われており、アイルランドの田舎の方ではスルーアの侵入を防ぐために、未だに西の窓は常に閉めておく習慣が残っている地域が多くあるそうです。
ちなみにスルーア(Sluagh)はアイルランド語で「host(群れ)」を意味し、これはスルーア(罪人の魂)が鳥の群れのように群がって宙を彷徨う事が由来であると言われています。
アンクー
アンクーはコーンウォールやウェールズ、アイルランドやブルターニュ(フランス北西部の半島)などの伝承に登場する死を司る精霊です。
アンクーは死を擬人化した存在とも言われ、死神やグリムリーパーなどの特徴と一致する部分が多く、同一視される事もありますが、死神やグリムリーパーなどとは根本的に異なる存在です。
主な役割は死者の魂をあの世に導いたり、墓守をしたりと、死神やグリムリーパーなどと類似していますが、アンクーは元々は人間であり、亡くなった後に精霊(死者の魂)となり、それ等の役割を与えられた存在であるそうです。
一方、死神やグリムリーパーは精霊(死者の魂)などではなく、それ等の存在は神または死そのものなので、元が人間のアンクーとは根本的に異なる存在です。
一説によると、その年の最後に死んだ者が翌年、自分が生前に暮らしていた教区のアンクーとなり、その教区の死者の魂を導いたり、墓守をしたりすると言われています。
そして、アンクーとしての務めは、また別のその年の最後に死んだ者と交代するまで続くそうです。
アスライ
アスライは主にイングランドのShropshireやCheshire、コーンウォールなどの伝承に登場する水の妖精または精霊です。
美しい女性の姿をしており、足の指にはみずかきがついています。
国や地方によってAsraiはAsrey, Ashray, Azraiなどと呼ばれる事もあります。
一説によると、アスライは太陽の光を浴びると溶けて水になってしまうので、普段は海や湖の深いところで暮らしているそうです。
そして、百年に一度、月明かりの下で水浴びをするために姿を現すと言われています。
なんでも月の明かりは彼女達が成長するためにはなくてはならないものなのだそうで、百年に一度だけ、月明かりの下で水浴びをしたりダンスをしたりするそうです。
また、コーンウォール地方の伝承では満月の夜は「アスライの夜」などと呼ばれているそうです。
ちなみに、アスライの肌は異常なほど冷たいので、安易に触れてしまうと凍傷になってしまうそうです。
まとめ
今回は日本ではあまり有名じゃない5種類の精霊たちを紹介しました。
ちなみに、妖精との違いについては様々な意見があるので一概には言えないですが、一般的に妖精は「人間のような姿をした精霊」で姿や形のある「生き物」であると言われています。
一方で、精霊は魂や霊などの事で、基本的に姿や形を持たないと言われています。
しかし実際は妖精と精霊は混同されがちで、姿や形を持たないものを妖精と呼んだり、反対に、人間のような姿形をしたものを精霊と呼ぶ場合もあります。
例えば、今回の記事で最期に紹介したアスライなどは「女性の姿をした生き物」なので基本的に妖精であると言われる事が多いですが、中には精霊であると主張する民族学者もいます。
要は、精霊というくくりの中には妖精も含まれているので、区別が難しい場合もあると言う事です。
この記事が何かの参考になれば幸いです。
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